「タイヤの皮むき」って聞いたことありますか?
新品タイヤの表面についた滑りやすいものを、バイクを走らせることによって剥がすことを「タイヤの皮むき」と言っています。
皮むきと混同しやすいものとして「慣らし走行」があります。
皮むきは表面的な皮を剥くことを意味していますが、慣らし走行はタイヤの内部やリムとの馴染といった構造的な部分を慣らすことを意味しています。
つまりタイヤ表面の皮むきだけをすればいいという訳ではありません。
皮を剥くことも大事ですがタイヤをバイクに慣らすことも同じぐらい大事ですのでしっかり意味を押さえておきましょう。
イメージとしては「慣らし走行」をしながら「皮むき」もするといった感じです。
この記事を最後まで読めば皮むきや慣らし走行を理解し正しく実践できるようになります。
大切な愛車を守るためにも、新品タイヤの特性や正しい皮むきのやり方を知っておきましょう。
皮むきとは?

「皮むき」とは新品タイヤの表面についた薬品あるいはタイヤの表皮を剥ぐことを言います。
お店に行って新品タイヤを見れば一目瞭然ですが、表面がテカっておりツルツルしています。
これを剥がさなければタイヤ本来のグリップ力を発揮することができません。
新車購入時やタイヤ交換時に整備士の方に「滑りやすいので、100kmぐらいは気をつけて走ってくださいね」と言われたことがあると思います。
新品タイヤは本当に滑りやすいので、いつもと同じように運転していると転倒してしまします。
皮むきは安全に走行するため、そしてタイヤの性能を十分に発揮させるために欠かせない作業です。
なぜ皮が付いているのか?
なぜそんなものが付いているのかと疑問に思いますが、その答えはタイヤの製造過程にあります。
タイヤを作るときは型に流し込み、形を作ってその後型から取り外します。
その時に型から外しやすいように一部のタイヤでは「離型剤」が使われており、これは消費者に届くまでタイヤを保護する役割もあるため、薬剤がタイヤの表面に付いたまま市場に出ています。
新品タイヤの表面には、製造工程で型抜きをしやすくするために離型剤などの薬品が塗られています。皮むきとはその薬品を落とす作業を指します。
新しいタイヤ購入時には、タイヤが本来持つ性能を十分に発揮させるために、タイヤの皮むきをしっかり行ってください。
DUNLOP
しかし、全てのタイヤメーカーが離型剤を使っている訳では無いそうで、離型剤が付いていないタイヤもあります。
「だったらそのタイヤを履けば皮むきしなくて済むのでは?」と思いますが、そうでは無いようです。
新品の消しゴムをイメージしてみてください。表面がツルツルしていますよね。
あれはゴムの「表皮」というやつで一番外側のゴムになります。
タイヤもゴムなので同じように表皮が存在します。
ゴムは中の部分が出てきて初めて本来の性能を発揮できますので、いずれにしても皮むきは必要な作業です。
新品から急激に過酷な条件で使用すると異常発熱による損傷を起こしやすくなります。
タイヤの表皮がとれて本来のゴムのグリップが発揮されます。
BRIDGESTONE
皮むき(慣らし走行)が必要な理由

タイヤの皮について理解したところで、なぜ皮むき(慣らし走行)が必要なのかを掘り下げていきます。
何をするにしてもその目的をしっかりと理解することが大切ですからね。
※ここからは「皮むき」と「慣らし走行」を併せて解説していきます。
- スリップ事故を防ぐ
- ホイールとタイヤを馴染ませる(偏摩耗を防ぐ)
- 寸法成長による発熱を抑える
- タイヤの性能差に慣れる
スリップ事故を防ぐ
新品のタイヤは滑りやすく、非常に不安定なものです。
新品タイヤに履き替えていつも通り運転すると確実に転倒します。
納車してすぐや新品タイヤに履き替えてすぐに転倒するという話はよく聞きますが、明らかにこれが原因の一つです。
皮むきの期間にタイヤの表面をある程度削ることで、スリップ事故のリスクを低くすることができます。
ホイールとタイヤを馴染ませる(偏摩耗を防ぐ)
タイヤの偏摩耗はハンドリング性能やブレーキの性能に大きな影響を及ぼします。
慣らし走行を行うことで新品タイヤとホイールの密着度を徐々に高めていきます。
360°均一に密着させることでタイヤの偏摩耗を防ぐことができます。
寸法成長による発熱を抑える
タイヤの構造内部の話になりますが、新品タイヤに空気を充填して初めて走行すると図で示す❶カーカスなどの構造部材はわずかに膨張する性質があるそうです。
膨張によって大きくなることから「寸法成長」と言われています。

寸法成長によってタイヤは発熱しやすくなり、いきなり過酷な使い方をするとタイヤの損傷につながります。
慣らし走行をすることでこの発熱を緩やかにすることができます。
タイヤの性能差に慣れる
タイヤ交換をしたことがある人はよくわかると思いますが、明らかにバイクの乗り味が違います。
古いタイヤは消耗しているので、タイヤとしての性能はかなり落ちている状態です。
新しいタイヤは最大の性能を発揮できるので、そのギャップを埋めるためにも慣らし走行は必要です。
皮むき(慣らし走行)の正しいやり方

具体的な皮むき(慣らし走行)の方法について解説していきます。
方法は大きく2通りあります。
洗剤などを使って洗い落とす方法と慣らし走行をしながら自然に皮を剥く方法です。
個人的には走りながら自然と皮むきをする方法をおすすめします。
新品タイヤは皮をむけばいいという訳ではありません。
先ほども触れたように、どちらにせよ慣らし走行をする必要があります。
ここでは慣らし走行をしながら皮むきを行う方法を紹介していきます。
慣らし走行で気をつけるべきポイント
以下のことを気をつけて走れば、転倒することなく慣らし走行できると思います。
- 最初はとにかく傾けない
- 急のつく操作をしない
- いつもよりゆっくり走る
そんなに難しいことはありません。
初めての私でもできたので皆さんも大丈夫だと思います。
ポイントについてそれぞれ解説していきます。
最初はとにかく傾けない
納車直後やタイヤ交換直後に転倒するのは滑りやすい状態なのにいつもと同じように傾けてしまうからです。
発進するときや駐車場から道路に出る際など、いつもと同じ感覚でバイクを傾けてしまうと転倒してしまいます。
発進の時はいつもより直線を意識して、真っ直ぐ慎重に発進しましょう。
道路に出るときはバイクをほとんど傾けずにゆっくり道路に入れるような状態で入りましょう。(後続車が来ていない時など)
交差点などで曲がるときも十分に減速してバンク角を少なくして曲がりましょう。
しばらく普通に走っているだけでも、タイヤの真ん中の方の皮はむけてきます。
乗り味や旋回の感覚を確認しながら、徐々にバンク角を深くしていきましょう。
いきなりタイヤの端まで使ってやろうと一生懸命傾ける人がたまにいますが、危険なのでやめてくださいね。
皮が剥けている範囲をタイヤの中心から徐々に広げていくイメージです。
急のつく操作をしない
これは普段の運転でも注意すべきですが、タイヤのグリップ力が少ない新品タイヤは特に注意が必要です。
バイクは加速が良く機敏に動けるので乗っていて面白いのですが、それはタイヤのグリップ力があってのことです。
急加速、急ブレーキ、急バンクなどはしてはいけません。
一度初心に戻って丁寧なスロットル操作、ブレーキ操作、バンクコントロールを意識しましょう。
急ブレーキをしなくて済むように、いつもより車間距離は広めに取りましょう。
いつもよりゆっくり走る
イメージできるかと思いますが、スピードを出すと様々なリスクのレベルが上がります。
また、いきなり高速で走ってしまうと新品のタイヤに大きな負荷がかかってしまいます。
【慣らし走行が必要な理由】でも触れたように、寸法成長による発熱が急になり、タイヤの損傷につながります。
また、リムとタイヤを馴染ませるためにもゆっくり走ることが必要です。
タイヤ交換作業では組み込みを容易にするためにせっけん水などを使うのですが、それがリムとタイヤの間に多少なりとも残ります。
急加速や高速で走行するとタイヤがリムを滑ってしまい、組み付け位置がずれてしまう可能性があります。
組み付け位置がずれるということはホイールバランスも崩れることになり、高速領域で振動が発生してしまいます。
しばらくゆっくり走っていれば、タイヤとトリムの間の石けん水も乾き、タイヤがリムに馴染んでいきます。
とにかく最初はゆっくり走りましょう。
慣らし走行はどのくらい走るの?
どのくらいの距離を走ればいいのかピンとこない方も多いと思います。
バイクの整備士さんは「100kmは慣らし走行してくださいね」といってくると思います。
多くのタイヤメーカーも100km以上の慣らし走行を推奨していますので、ここはいうことを聞いた方が良さそうですね。
一般道を普通に100km走っていればそれなりにタイヤの皮もむけてきます。
私が実際に慣らし走行をしながら皮むきをしましたので、タイヤの移り変わりを見ていきましょう。
最初はお店から家まで10km程しか走っていないタイヤです。
タイヤの中心部分だけがうっすらむけている状態です。

私が慣らし走行をして100kmの時のタイヤがこちらです。
タイヤの端と真ん中で見た目が違うのが分かると思います。
100kmでもタイヤの中心部は十分皮むきが出来ています。

次は200km走った後のタイヤです。
先ほどの写真よりも皮がむけている範囲が広がっていますよね。
このように徐々に範囲を広げていきましょう。

最後に300km走った後のタイヤです。
さらにむけている範囲が広がっています。
タイヤの端のむけていない部分(通称:アマリング)が少しありますが、ここは普通に乗っていたら使わない部分なので気にする必要はありません。

慣らし走行のNG

今度は逆に慣らし走行中にやってはいけないことを紹介します。
- 濡れた路面を走る
- 高速道路で皮むきする
- いきなり峠道で皮むきする
濡れた路面を走る
濡れた路面で皮むきはNGです。
普通のタイヤのグリップ力なら大丈夫でも、皮むき前のタイヤでは確実に滑ります。
どうしても濡れた路面を走るときは、バイクを極力寝かさずタイヤに荷重がかかっていることを意識しながら乗りましょう。
高速道路で皮むきする
「高速道路でやれば早く終わるんじゃない?」と思うかもしれませんがNGです。
グリップ力のないタイヤで高速で走るのは非常にリスキーです。
また、高速はほぼ直線で走れるようになっているので、タイヤの中心部分しか皮むきできません。
また、リムとタイヤが滑って組み付け位置がずれたり、寸法成長による発熱が著しくなりタイヤの損傷につながります。
慣らしが終わるまでは一般道で我慢しましょう。
いきなり峠道で皮むきをする
ある程度皮剥きが進んでいればいいですがいきなりやるのはNGです。
峠道は急なカーブが多いのでどうしてもバンク角が深くなります。
バンク角が深いとタイヤの皮がむけていない部分が多く接地し、転倒のリスクが高まります。
普通の道でも曲がるときに徐々にバンク角を深くしていけば十分皮むきはできます。
まとめ(慎重に走れば問題なし!)
皮むき:新品タイヤの表面についた薬品あるいはタイヤの表皮を剥ぐこと(タイヤの外部)
慣らし走行:新品タイヤをバイクに馴染ませるための走行(タイヤの内部)
- スリップ事故を防ぐ
- ホイールとタイヤを馴染ませる
- 寸法成長による発熱を抑える
- タイヤの性能差になれる
- 最初はとにかく傾けない
- 急のつく操作をしない
- いつもよりゆっくり走る
- 慣らし走行は最低100km
- 濡れた路面を走る
- 高速道路で皮むきする
- いきなり峠道で皮むきする
いろいろと書きましたがとにかく慎重に走っていれば問題ありません。
実際にタイヤ交換をするとその違いに驚きます。
その経験をすることで、タイヤが地面に噛む感覚を今まで以上に感じられるようになり、バイクに乗るのがさらに楽しくなるはずです。
ビビりすぎることなく安全にタイヤを慣らしていきましょう!
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